綾鷹物語

最終話 上林春松本店、親子二代が語る「上林春松本店と綾鷹」

上林春松本店の会長・社長に伺う

「上林春松本店の章」では、京都・宇治の老舗茶舗「上林春松本店」の約450年にもわたる茶師としての歴史をを辿ってきました。これまでの連載からも読み取れるように、上林春松本店の450年の歴史は、「伝統と革新」という言葉で言い表すことができます。茶師として代々培ってきた伝統を重んじながらも、その時代を先読みし柔軟に発想することで、消費者のニーズを捉えることに成功してきました。
最終話となる今回は、現代の上林春松本店の歴史を紡ぐ、会長の第十四代上林春松氏と社長の上林秀敏氏に、上林春松家の450年にわたる歴史を振り返っていただきます。

左:会長 第十四代上林春松氏 右:社長 上林秀敏氏

数々の苦境を乗り越えることができたのは?

第十四代上林春松(以下、会長):
上林春松家の歴史を振り返ってみると、われわれにとってもっとも大きな功績を残したのは、江戸時代から明治時代へと変わる激動の時に当主を務めた第十一代上林春松だったのではないでしょうか。幕府や大名からの庇護がなくなり苦境に立たされながらも、新たに問屋業に着手し、茶師から茶商へ転身を図り、お茶を一般の庶民に販売する道を選んでいます。ほかの多くの宇治の茶師たちは、それまでは幕府や大名相手に取引を行っていたため、一般の消費者を相手に商いをするということはプライドが許さなかったようですが、第十一代上林春松は果敢に実行しました。第十一代上林春松は、22歳の時にはもう当主になっておりましたので、おそらく若かったからこそ、茶師から茶商へとうまく転身ができたのではないかと思います。

上:上林家の家紋 下:上林春松本店に残る「綾鷹」関連文書

社長:  若くして当主の座についたために、プライドや伝統にしばられることなく、時代の流れに適応することができたということですね。会長も、かなり若い年齢で当主の座についていますよね。就任された時、上林春松本店はどのような状況だったのですか?

会長:  私の父、第十三代上林春松は、昭和19年に太平洋戦争に召集されて昭和21年に帰還したのですが、帰還後は、戦争の被害によって、全国にいるお得意先と連絡することさえままならない状況でした。ですから一時は、もう茶業から撤退しようかと考えたこともあったようですが、なんとか小さな会社を興し、お茶の卸売業を始めました。しかし、卸売業だけではなかなか厳しい経営状態でした。そして、私が三十歳を過ぎたころ、若くして社長を引き継ぎました。その頃、たまたま京都の百貨店から出店してみないかとのお誘いをいただきました。これまでお茶の卸売りを中心として事業を展開しておりましたので、小売業の分野に進出するというお誘いを受け、進出すべきかどうかずいぶん悩みました。ですが、ひとつの売り場として百貨店は魅力的なのではないかと考え、出店を決意しました。百貨店での販売はこれまでの商売とは異なり、最初は思うように成果が出せなかったのですが、徐々に軌道に乗り始め、今度は東京の別の百貨店からも出店のお話をいただきました。京都の百貨店に出店してからおよそ5年後のことでした。

社長:  やはり会長も若かったからこそ、百貨店に出店するという新しい試みに挑戦できたのですね。私がコカ・コーラ社からPETボトル入りの緑茶開発への協力依頼のお話をいただいたのも、社長になってまだ1年も経たない39歳の時でした。今思えば、経験も浅かったので、柔軟に発想し決断をすることができたのではないかと気づきました。

会長:  これは、大きな英断でしたね。上林家の歴史を振り返ってみると、不思議なことに当主がまだ若い時に過渡期が訪れて、上林春松本店の歴史を左右する英断を下しています。実はこれが上林春松家にとって非常に重要であったのではないかと、歴史を振り返ってみて思いました。若いからこそ、伝統を重んじながらも、それだけにとらわれる事なく、時代の流れに適応して柔軟に発想することができたのですね。ある程度、年月が経ってしまうと、当主としてのある種の伝統の重みのようなものが身についてしまい、そう簡単には、新しい考え方を取り入れたり、柔軟に発想できなくなるものです。さまざまな苦境を乗り越えてこられたのは、運もあるかもしれませんが、この「若さによる柔軟な発想」だったのではないかと思います。

上林春松本店の章

  • 第一話 戦国の覇者、信長と上林家
  • 第二話 太閤の御茶頭取・上林家の誕生
  • 第三話 利休・織部・遠州が愛した上林家の茶
  • 第四話 上林、茶の天下をとる
  • 第五話 御茶壷道中の栄誉、そして挑戦の時代へ
  • 最終話 上林春松本店、親子二代が語る「上林春松本店と綾鷹」

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